あっちこっちシアターインフォ(八戸情報誌 amuse 2017年02月号)
文:大澤苑美(八戸市芸術環境創造専門員)
南郷アートプロジェクト「ゑびす大黑道中」に向けて
「春のは~じめに福大黒は金をどっさりしょって、舞い込んだや~こら、ひとつとせ~」なんともめでたい大黒舞の歌いだし。極寒の2月の八戸で、春を呼ぶ「八戸えんぶり」の中にある、大黒舞のフレーズだ。
ご存知のとおり、太夫の見事な摺りと数々の祝福芸からなるえんぶり。八戸地方のわれわれはもちろんだが、このえんぶりは、ダンスに携わるアーティストにとっても、眼を奪われる魅力的な“身体表現”である。
南郷アートプロジェクトでは、その中の「大黒舞」と「ゑびす舞」をもとにした、新しいダンス作品を発表しようと、その準備をしている。その名も「ゑびす大黑道中」。舞踏家・振付家の目黑大路が振付をし、全部で4名の男性ダンサーが出演、2月12日(日)南郷文化ホールで上演する。
約2年前には、世界でも有名な舞踏カンパニー「大駱駝艦」(主宰:麿赤兒)が、荒谷えんぶりからえんぶりを習い、それをもとにした「おじょう藤九郎さま」を制作した。南郷の後に東京でも再演され、好評を博した。見慣れた私たちには意識の下にもぐってしまっているえんぶりの本質や人間味をあぶり出したものだ。
さて、今回の公演も、同じくえんぶりを題材にはしているものの、烏帽子をかぶる太夫の「摺り」ではなく、祝福芸の大黒舞とゑびす舞に注目する。というのも、これらは、決してえんぶり固有のものではなく、全国にある演目。目黑は、そのふたつの踊りの歴史や変遷もリサーチし、新しい作品を生み出そうと試みる。さらには、南郷で上演するということで、ジャズの音楽を用いることも画策しているというが…。はて、どんな舞台になることやら。
作品には、南郷は鳩田地区の「泉清水えんぶり組」と、南郷と階上の境となる地域の「田代えんぶり組」にも登場願うことになっているのでお楽しみに。
最後に。この作品の監修をしてほしかった人がいたのだが、昨年秋に、天に召されてしまった。えんぶりを愛し、芸能を愛し、南郷を愛していた荒谷えんぶりの春日親方。一風変わった切り口で地域と向き合い、アートイベントを繰り広げる私たち南郷アートプロジェクトの企画にも寛大な心で応援してくれた。あぁ、無念。当日は空から見てくれるだろうか。南郷アートプロジェクトは、これからも南郷の芸能や地域の皆さんと一緒に、果敢なチャレンジをしていきたい。