前へ戻る

あっちこっちシアターインフォ(八戸情報誌 amuse 2015年03月号)

文:中田絢子(第三回はちのへ演劇祭 演出助手)

第三回はちのへ演劇祭「はっちのえんげきさい」に寄せて

誌面表示  ヤバい。若者言葉を使っていい歳でもなければ、己の語彙の貧弱さをさらけ出すようで恥ずかしいことこの上ないのだが、もはやこれしか出てこない。ヤバい。これは本当にヤバい。まず台本がない。しかも人が人を演じない。極めつけには、八戸の街が普通に動き出す。ワケが分からない。面白すぎる。ヤバい。ヤバすぎる。
 東京で活動されている十和田市出身の演出家・中屋敷さんをお招きして、初めての稽古を行ったのは去年の年末のこと。中屋敷さんは、まず役者の特殊能力を開発するところから入った。何の話だとおののかれることだろうし、私も実際何が始まったのかと後ずさったが、三ヶ月経った今なら分かる。あれは紛うことなき特殊能力を手に入れるための、摩訶不思議な儀式であった。このお芝居では、そんな特殊能力を得た役者たちが入れ替わり立ち替わり登場する。
 ところで今回、演出助手という大役を仰せつかった。偉大なる中屋敷さん不在の間の進行役、まして台本のないお芝居など初めてだ。あまりの重責に震え上がっていたのだが、手探りで稽古を重ねる内に、不安を通り越して面白くなってきた。稽古の度に、毎回生まれるものが違うのだ。そりゃあ台本がないのだから当然だ。そして気付いた。ただ役者の身体があって、声があって、演劇と八戸を愛する心がある。それで充分なのだ。この時、この場所、このメンバーだから生まれる新しい言葉、感情、物語――これはその時その瞬間に生まれる『出会い』を楽しむお芝居なのだと。そう悟ってからは吹っ切れた。なにしろ東京から身一つで飛び込んできた役者までいるのだ。この『出会い』を最大限に楽しまなければ損というものである。
 さて、大いに宣伝したいところなのだが、このお芝居の魅力、私の拙筆ではどうにも説明し切れない。とにかく来て、見て、感じていただきたい。私たちのよく知っているあの建物が、祭りが、動いて、しゃべって、確かなリアルさでそこに『生きて』いるのだ。最初は度肝を抜かれるだろう。けれどもその内に、気付くと身を乗り出しているはずだ。「そうだそうだ!」と手を叩いたり、「それは知らなかった!」と額を打ったり、あるいは「そこは違うぞ!」と舞台に飛び出してしまいたくなるかもしれない。
 劇中で飛び交うのは、八戸を愛しているからこそ出てくる生の言葉。演じる人も観る人も、ますます八戸を好きになること請け合いだ。観終わってはっちを出た時には、きっといつもの風景が違って見える。もしかすると八戸の街が語りかけてくるかも知れない。
 第三回はちのへ演劇祭「はっちのえんげきさい」は、3月1日~8日まで、はっちのシアター2にて上演される。新たな八戸と出会う旅、どうぞお楽しみください!


前へ戻る