前へ戻る

あっちこっちシアターインフォ(八戸情報誌 amuse 2015年02月号)

文:豊島重之(演出家・美術展キュレーター)

ようこそオーロラの島へ/ようこそ魔女たちの狂宴に

誌面表示 ■ひまわりといえば誰もがその花のタネを慕わしく思うはず。向日性のヒマワリの画家にまっすぐ正対する「向月性の種子の画家」。その追悼回顧展がいま豪雪に埋もれた青森県立美術館で開催されている。
 ファン・ゴッホの名作『ひまわり』収蔵で名高い東郷青児美術館大賞やデーリー東北賞の受賞画家豊島(トヨシマ)弘尚が2年前の10月19日に永眠した。書家の父鐘城の命日3月19日に幽かに符牒を合わせたかのように。晩年の鬼気迫る画業には亡父の遺した墨・筆を駆使して、敢えて銀箔面との斥力に賭ける破墨・潑墨(はぼく・はつぼく)の描法も見受けられたからである。
■種子の画家を決定的にしたのは極北のオーロラ体験だ。エッセイ集『極光ありて』に散見されるキルナ・ボグネス・ロフォーティンの地名。オーロラは魔女たちの華麗なる乱舞/ワルプルギスの狂宴であり、その光源は未踏の北極点/スヴァールバルだとトヨシマ本人から聴いた覚えがある。その氷点下の島は冷戦期以後に注目され始めた核戦争の軍略要衝だ。筆舌に尽くせぬ美の極致が世界終末のカタストロフィでもあるという凄まじい背理(!)
 核戦争なみの異常気象・天変地異が地球を覆うなか、オーロラの島に絶滅種子を凍結貯蔵するという、あのビル・ゲイツ提唱の「スヴァールバル種子救済計画」はまだ間に合うのか。もう間に合わないかもしれない。それなら私たちは「ワルプルギスの前夜」を企もう。極光が妖しく乱れ舞う氷点下の島で、魔女たちの狂宴を。
■公演データ
[青森EARTH2014/追悼豊島弘尚《彼方からの凝視》特別展]連動企画
豊島重之+モレキュラーシアター舞台芸術公演【スヴァールバル 〜種子の方舟/SVALBARD VAULT:Vehicle for Seeds】
3月8日(日)14時〜15時半(ワンステージのみ)会場:青森県立美術館シアター/入場無料/主催・問合せ・事前申込:青森県立美術館:TEL 017-783-3000/ bijutsukan@pref.aomori.lg.jp
◎作・演出・美術:豊島重之/映像出演:倉石信乃(写真史家・明大教授)◎トーク出演:佐々木敦(批評家・早大教授)・石川千佳子(美術史家・宮崎大教授)・高橋宏幸(演劇批評家)・佐藤英和(映像作家)◎パフォーマー:田島千征・中野真李・久保田祥貴・田中幸乃・大久保望ほか
モレキュラー:molecular.theatre.hachinohe@gmail.com/


前へ戻る